若手声優との結婚を夢見る45歳「子供部屋おじさん」の末路
勉強して進学して、働けば『クレヨンしんちゃん』の父・ヒロシのように家庭を持ち家を建て、ぜいたくは無理でも普通の大人になれると思っていたのに、どうもうまくいかない。そんなわだかまりを抱えさせられた30~40代の就職氷河期世代に対し、まだやり直せるという期待をこめて「しくじり世代」と名付けたのは、近著『ルポ 京アニを燃やした男』が話題の日野百草氏。今回は、若手声優との結婚を20年超にわたって夢見ているという派遣ITエンジニアの男性についてレポートする。
福田さん(仮名)は45歳、1974年生まれの団塊ジュニアだ。埼玉県内の私立高校から私立工業大学を卒業、現在は派遣のITエンジニアをしている。年収は300万ほど。
「実家住まいなんでお金はかかりません。春日部は都心まで1時間かからないし、地下鉄直結で便利です。家を出る理由がないしお金もったいない」
福田さんは趣味以外にお金を使うのは考えられないと語る。服は母親がたまに買ってきたもので、好みもないので何でも着るという。ポロシャツのロゴも靴のロゴも某タイヤメーカーのもので、たしかに地方の年配の人によく見られる服装だ。店内でもキャップを脱がないのは若ハゲが嫌だという理由で、これも某タイヤメーカーのロゴが踊る。
「高校は私立の単願でした。小学生のころは『春高』(かすこう・春日部高校のこと)に行けと言われてたんですけど、中学に上がったら成績が下がるいっぽうで」
成績が下がった理由は、アニメとゲームだった。福田さんは当時流行したオリジナル・ビデオ・アニメーション(※OVA、放送ではなく販売が主のアニメーション)や、ファミコンより高度なゲームを遊べたパソコンゲームにハマった。
「野田線(現在の東武アーバンパークライン)を柏(千葉県柏市)まで行くと、アニメショップがあるんです。毎週通いました」
つまり福田さんはオタクだ。それも中学時代のバブル期からずっとオタク。福田さんはオタク趣味と自慰(いまでも一日何回もするという)にハマってしまい、地元私立の単願が精一杯でそのまま進学した。
「私の入った工業大学も当時はそれなりの偏差値でした。理系というだけで文系より上でしたからね。それがいまやFランですよ。バカ大扱い。そりゃ当時だって凄い大学ってわけじゃないけど、全入でもなければバカでもない。おまけにせっかく入っても在学中にバブルが弾けて散々です」
偏差値と文系理系をいまだにこだわるのも団塊ジュニアの特徴だ。私は少し意地悪なことを聞いてみた。
「福田さん、40過ぎたおっさんが自分のお子さんの話ならともかく、偏差値とか文系理系とか、どうなんでしょう」
福田さんはその質問にたじろぐこと無く、ナンをラッシーで流し込む。
「なんかこだわっちゃうんですよね、そういうふうに生きてきましたから。みんなそうでしょ」
福田さんは古参2ちゃんねらー(※日本最大の匿名掲示板2ちゃんねる、現5ちゃんねるユーザー)でもあり、いまでも文系叩きが大好きだという。最近の主戦場はYahoo!ニュースのコメント欄、通称ヤフコメ。政治には興味なく関心事はもっぱら学歴だが、高校時代にちやほやされていた体育系部活の連中が嫌いなので、スポーツ選手叩きにもいそしんでいる。とくに高卒選手は格好の標的だ。
就職浪人と称したニート生活ののち、折からのWindows95に始まるITブームに乗って小さなゲーム会社に契約社員として就職する。
「職歴なしでしたけど20代でしたからまだ間に合いました。プログラマ採用ということでしたが、その会社で一から教わった感じです。一応情報系だったんですけど、ゲームに大学の授業はそれほど役に立ちませんでしたね。でも楽しかった。毎晩徹夜で会社に泊まり込んで、会社もオタクばっかりで年も近い社員ばかりですからオタク人生を謳歌しましたよ」
心底懐かしそうに、楽しそうに語る福田さん。さらに口が回る。
「でねでね、1990年代末ごろに、ゲームも声優を使いだしたんです。声を収録できるようになった。それでうちでも声優を起用しだした」
ゲームと声優の世界が近くなったことで、オタクな福田さんにとってゲーム会社で働くことは、またとない仕事になったわけだ。裏方のプログラマだったはずが、小さい会社なので声優の起用も担当する。要は人気声優に会えるどころか、一緒に仕事ができる。
「興奮しましたね。人気声優をよりどりみどり選べるんですから、むっちゃ自分の好みで選びました。あの美少女キャラの中の人、女性声優が目の前にいて、「福田さんってばー」なんて会話してくれるわけです。打ち上げでも女性声優に囲まれて、夢のようでした。正直なところ、小さな雑居ビルでゲームのプログラムを打ち込んでいただけの自分が、急にオタクギョーカイ人みたいになって、それにめちゃくちゃかわいいんですよ!」
筆者も長くそういった仕事をしていたのでわかりすぎるほどわかる。苦笑する他なかったが、当然すべては「仕事」であり、彼女たちからすれば「営業」である。しかし当時も現在も彼女いない歴=年齢の福田さんには刺激が強すぎたようだ。
「なんとか声優と結婚しようと思ったんです。親も結婚しろ、孫の顔を見せろとうるさかったし」
オフに二人で会おうとしたり、呑みに連れて行こうとしたりの行為は、やがて声優の所属事務所から警戒され、「あのひとを外してください」と言われたり、中には「もう御社の仕事は無理」と言われることもあったとか。とくに福田さんがご執心だった某女性声優は、福田さんの絡んだゲームでは必ず起用し、デートもしたことがあるという。だが事務所から猛烈な抗議を受け、声優自身も「断りきれなかった」と泣きながら訴えたことで福田さんはついに、その仕事から外された。翌年、社員として契約は更新しないと告げられ、会社を去ることになった。
「それに若い子が少ないじゃないですか。やっぱり若くてかわいい子がいいです。親も子どもを欲しがってるし。アニメキャラはもちろん、声優だって20歳代後半でババア扱いのギョーカイですから。そういう世界にいた自分としてはその辺のおばさんなんて無理ですね」
やはり声優と結婚したいという、それも若い声優で。いまも子役上がりの声優でMという「推し」がいるようだ。四半世紀の年の差があるのだが。
筆者は気分が悪くなったのでうんと意地悪な問いかけをしてみた。親の介護と老後はどうするのかと。
「幸い親は年金で裕福ですし、一人っ子なんで持ち家は継げます。親の介護? 考えたこともないですね。まだ二人とも元気で海外旅行とか行ってますよ。どうにかなったら施設に入れるしかないでしょう。自分の老後はもっとわかんないですね。それより正社員になって結婚して、子どもを作ることが重要でしょうね」
福田さんは真面目な顔をして語るが、数年後に結婚して子どもを作ったとして、福田さんは子どもが成人するころもう70歳だ。それを指摘すると「男はいくつになっても子どもは作れますから」と言った後、「あ、さっきのババアとかのとこ、ネタですからね」と笑った。いつになったら自分の年齢と、残された時間に気づくのだろう。気づかないフリをするしかないのか。
どうにかなったら施設に入れるしかないでしょう。親が聞いたら絶望して泣くよ、45歳のおっさんになるまで子供を実家で面倒みているのに、この言われ様は。
自分本位もここまでくれば病気といえよう。
しかし世間一般で忌避される「子供部屋おじさん」のイメージは、まさしくこの福田さん(仮名)であるのだ。
この問題の本質は「分不相応に45歳のオッサンが若手声優との結婚を夢見ている」事ではない。夢見てしまうプロセスにあり、彼という人格を形成した環境だ。
幼稚なままに中高年になってしまうケースが多いと思う、こどおじには。
精神的に大人になるのが難しいのだ。
だって想像してみよう。自立できないお子様だからこそ許される「親が衣食住の面倒を負担してくれる」という状況が、大人になってもずっと続いているのだから。仮に月10万円を生活費として親に渡したとしても、飯と洗濯と風呂と光熱費や税金の支払いが基本的に親持ちなのだ。
自分が大人になった、あるいは年を取った、おっさんになったという客観視(自覚)するのが困難になってしまうというか、この福田さん(仮名)にとっては「自分はまだ若いと」いう感覚だと思われる。
こどおじの弊害はそれだけではない。
1番の問題は、親元に居続けると変化というリスクが発生し難いのだ。
これは仕事でもそうなのだが、リスクや変化を取らない状況がデフォルトになっている人は、そうでない人=リスクや変化を取る人に比べて、ベース的な意味合いでのスペックが上がらない傾向がある。
リスクを乗り越えたり変化を経験しないと、いつまで経っても同じ場所に留まる状況に陥るという事に他ならないから。
僕も30代のこどおじと同僚だった事があるが、正直いって能力はともかく人格的に幼稚で調子を合わせるのがキツかった。学生時代の様に若い、というのは異なり、本当に子供のまま社会人しているという印象を受けた。
僕的サンプル数が少ないとはいえ、やはり家賃光熱費を自分で支払う程度すら経験していないと、暮らしに対しての価値観がかなりズレているなと感じざるを得ないのだ。
実家暮らしで人格者は知ってはいても、実家暮らしで精神的に大人な男性は知らないし。
子供部屋おじさんが世間からマイナスイメージなのは、前途した様に「親の庇護下にいる事によって精神的成長が阻害されて幼稚なまま」というレッテル貼りがあり、事実、そういったこどおじが存在しているからだ。
参照
https://www.zare-kiji-tukai.com/entry/hatena-Mr_children_s_room